ちくま文庫からでた「家が呼ぶ 物件ホラー傑作選」のレビューです。
物件ホラー傑作選とは?
ホラーファンにとって永遠のテーマの一つといえる「こわい家」。屋敷やマンション等をモチーフとした逃亡不可能な恐怖が襲う珠玉のアンソロジー!
「日本の夏、物件ホラーの夏」ということで早速読んでみました。
結論から言うとたいそう怖いです…
若竹七海「影」
一件目のお宅は友人宅。の向かいの塀。の向こうにあった家。
一件目なので重いジャブと言ったところ。物件ホラーで嫌なのは、自分が住んでいる家の近くがホラー物件だった場合。引っ越せないので中々大変である。これを読んだ人はやっぱり賃貸でいいか…と、自分の人生設計にも影響を及ばす可能性が微妙に存在するのでは。しかし、過去話にでていた友人のお母さんが現在の時間軸では一切出てこないのが地味に怖い…
三津田信三「ルームシェアの怪」
前回は友人宅の向かいが物件ホラーでしたが、今回は自分の住んでいる場所! でも賃貸だから良かった。これを読んでルームシェアの予定を辞める人もいるだろう。いやそれよりも〇〇してから運転してはいけない。これは怖い。「あ!」と驚く仕掛けもあり、おススメ物件(ホラー)です
小池壮彦「住んではいけない!」
実話怪談の連作?テンポが速く、様ざまな話が入っているのでこちらが身構える隙がなく物件ホラーが飛び込んできます。いい意味で安定を拒む3軒目。編者の意気込みが伝わってくる。ラストの話は異様。楳図かずおを彷彿とさせる子供物件ホラー。
中島らも「はなびえ」
割とオーソドックスな4軒目。しかしながらラストは現在進行でホラーが牙を剥いてくるので、題材と絡まって一層FRESHな物件ホラー。若干80年代トレンディーな感じがするのは私だけだろうか…
高橋克彦「幽霊屋敷」
怖いなあ、嫌だなあ。しかし、子を思う親の気持ちは偉大である。幽霊屋敷に入っていく気味の悪さ、恐ろしさを非常にうまく書けている(このいいようは何様なんだろうか…)。幽霊を前にして「邪悪なものである」と言い切る父親の酔眼に乾杯。
小松左京「くだんのはは」
え、また「くだんのはは」か?とアンソロジー好きはそろそろ思うかもしれないが、アンソロジーの良さはどういうくくりでまとめられているか、前後の作品との対比はなにか、という観点によって既読の作品でもまた違っ、まあ、面白いです。一番文学している気がするなあ。怖くはないがこういう作品があるとアンソロジー全体が引き締まりますね。
平山夢明「倅解体」
「お茶はどうします」「ジャスミン茶、熱いの」のパンチラインの速度、強度を保ったまま怒涛のラストになだれ込む快作。「物件ホラーとは…」とここにきて読者を立ち止まらせる問いかけを、読者はどう解釈していくのか…。題材はもはや現代批評である。
皆川博子「U Bu Me」
産女。「正気か?ホラーか?」ものの傑作。傑作たる由縁はやはりラスト3行であろう。出産の描写が「倅解体」の冒頭にも繋がる。本来、繋がるはずのない物語が、勝手に繋がってしまうのはアンソロジーの妙味。
日影丈吉「ひこばえ」
物件ホラーというからにはやはり「ひこばえ」は必要不可欠。当代随一の「イヤ物件ホラー」である。じっとりと嫌な話。これを煮詰めて引き延ばしてマンションにして自分で住むと「墓地を見下ろす家」になる。
小池真理子「夜顔」
いやー、たまげた。これほど展開が乱高下する短編もちょっとないだろう。「物件ホラーは哀しい」と言ったのは今の私ですが、ねる前にしっとり読みたい一遍です。
京極夏彦「鬼棲」
ああ、面白かった。「ない」ものを語る言葉はない。
全て読み終わって、
とにかく、「ひえ!」と背筋がぞっとするものが多く、これぞ日本の夏の風物詩と瞬く間に読み終わってしまった。願わくばこの本がいっぱい売れて来夏に二軒目のアンソロジーが編まれることを…おかしい、隣の家はずいぶん前から空き家のはずなのに人影があんなにたくさん…。
この夏に読むホラーおススメ